2014/11/25

第36・37冊 気合いも根性も不要で自分を動かす 『使える行動分析学』『人生を変える行動科学セルフマネジメント』

あなたは変われる、と高らかに歌い上げる本は
多いですが、自分なんてそうそう変わりません。


変えられるのは、行動だけ。


……と分かってはいても、できない。
三日坊主が羨ましい。
三日も出来てるんだから!


……と思うくらい、私はモノグサな人間で、
とにかく行動を先送りするのが得意。


「敵は引きつけて撃て」と戦争映画の軍曹殿が
言っていましたが、引きつけ過ぎて、たまに
敵が横をすり抜けていったりする……。


自らの行動力・実行力の無さ、低さを嘆き、
なんで、こんな簡単なことを日々こなすことも
出来ないのか…… とお嘆きのあなたは、
私と同じ穴のムジナですね。


理屈でわかっていてもあまりにも行動できないので、
『動物感覚』を読んで、動物の世界観から自分の感覚を
理解してみようとしたり、

 参考 →第1冊 人間だって動物です『動物感覚 アニマルマインドを読み解く』 

また、「天の神様の言う通り」に行動していた頃の人間の
精神の状態を知りたくなってみたり 、

 参考 →第7冊 神は、まだそこにいるのです 『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』
……と、まあ、傍から見ると大事なことそっちのけで延々本を
読んでいるように見られてますが、まあ、その通りですね。


さて、私がそんなモヤモヤの中で天啓のごとく
出会ったのが

「行動分析学」

……という学問。


心理学の一分野ですが、面白いことに、
意識とかココロの中身とかを問いません。


人間や動物の行動は、環境や、行動にともなって起こる
結果(随伴性)が引き起こす……といった視点の学問です。


つまり人間が行動できないのは、その人にとって気合いや
根性の問題ではない、ということです。


例えば、行動分析学者である島宗理さんの唱える、

個人攻撃の罠

という概念。


「われわれは何か問題が起こった時、個人の性格や資質の
せいにしがちだけど、それは問題解決において何の役にも
立たないよ」ということを指摘した言葉なのですが、これ、
もっと広まれば自殺者が減るのではないか
というくらいに素晴らしい考え方だと思います。


「自分の意志の力や気合いが足りないから事態が解決しないのだ」
と自分を責めることで問題が解決することはまずありません。


大切なのは、意志の力も気合いも根性もなくても、しかるべき行動を
とるような仕組みを考えていくこと。



自らをスッカリ根性無しのヘナ○○と思ってしまったご同輩には、
ぜひともご一読いただきたい2冊をご紹介しましょう。




使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書): 島宗 理


上で紹介した「個人攻撃の罠」をはじめ、用語の難しい
行動分析学をわかりやすく、しかも実際に役に立つ形に
して紹介して下さっている島宗理さんの著書です。



用語や、具体的に何をするかが難しいと思われがちな
行動分析学ですが、この本に書かれた方法であれば、
実に具体的に、実に気軽に始められます。


この本のタイトルにある「じぶん実験」というのもまた
魅力的な概念で、

行動の諸原理や研究方法を学んで自らが自分の行動を
探求する力をつけること
自分にあったセルフコントロールやセルフマネジメントの
手続きを開発する方法を手にするということ
……を目的にしたものです。

要するに、「自分」というブラックボックスの動かし方を探索し、
実際に動かす方法を見つけていくための手引書、ということです。

紹介されている具体例も面白く、人間の行動がこんなことにも
左右されるのか!というのは驚きであるとともに、ちょっとした
救いにもなります。


人生を変える行動科学セルフマネジメント: 石田 淳


 こちらも名著です。


結果を導き出すのは「行動」しかありません。
どれほど強い意志があろうと行動なきところに結果は生まれません。
逆に意志は弱くても行動すれば結果は出ます。
わかりやすい「行動」にフォーカスすればいいのに、その前に
「意志」という極めて不明瞭で高いハードルを置いてしまっているのが、
今のあなたです。

しびれます。


『使える行動分析学』が、自分の行動のチェックの仕方に力点を置いている
のに対して、こちらは、具体的にどのような対策で行動を呼び起こすか、
という方法の具体例が紹介されており、2冊合わせると、最強です。


まったく片づけの出来なかった私が、これらの本のおかげで、
ある程度まで片づけが出来るようになっていますので、間違いなく
効果はあります。


心を燃え立たせる系の自己啓発が向かなかった方、
動けない自分が嫌いな方、変なセミナーやプログラムに
手を出すよりは、まずはこの2冊をおためしあれ。

2014/11/12

第35冊 成りあがれ!ナマグサ坊主忍者医師 『全宗』


全宗 火坂 雅志


恥ずかしながら、全宗という人のことは
サッパリ知らなかったのですが、

「信長の比叡山焼き討ちから命からがら逃げおおせた僧で、
その後、かの有名な曲直瀬道三のもとに弟子入りし
漢方医学を学んだ後、秀吉の主治医兼ブレーンとして活躍」

……と駆け足で省略しても面白い経歴なのですが、
本作では、その全宗が実は忍者の出であった、という、これまた
ユニークな着想からスタートしております。

「医術を足がかりに出世、当時の権力の中枢近くまで
上り詰めた」という意味では ある意味、弓削道鏡やラスプーチン
と同列に語られるのもやむなしですが、彼ら二人と、この小説で
描かれた全宗の決定的に異なる点があります。


 道教やラスプーチンが祈祷の力をもって病を治して権力者の心を
つかんだのに対して、全宗は当時の日本の正統医学である漢方を
つきつめて得た、オカルティックな要素を排した技術と、おのれの
智謀とで成りあがっていく点です。


そのあたりが、この小説の真骨頂でありましょう。


印象的だったのは、途中、全宗が師である曲直瀬道三に言われ
漢方を処方する際に、その場でわかりやすく効果が実感できるよう
処方をいじる「狡さ」や、もはや救えぬとなればアヘンによる除痛
さえ厭わず、また、それで大金をせしめても当然とするある種の「強さ」。


これを読んで思いだしたのは、『陋巷に在り』の医鶃という医者。
→第13〜26冊+α 顔回と孔子の呪術的世界『陋巷に在り』
あれもアクの強い医者でしたが、こちらも負けず劣らず。


ものすごく悪い奴(笑)なのに、医術への思いだけは真摯だったり、
年下の女性に惚れてぐらつくような、突然純情な面も見せたりする、
そんなあたりも本作の主人公の魅力ですが、そうした面と、秀吉の
ブレーンとして振る舞う点とが地続きになっているのが、本作の
魅力です。


上述の全宗の懸想する「年下の女性」の描写が、清楚なのになぜか
エロティックですが、この恋は、最強の恋ガタキに阻まれます。
そのことを、歴史的事件と結び付けていく流れなんか、素敵です。
ま、このへんは読んでのお楽しみ、ということで。


全く余談ですが、知恵袋の場合はブレーン、単純に脳を現す場合には
ブレインと書く場合が多いのは、何なんでしょうね。

第34冊 傾国と呼ばないで 『唐玄宗紀』

唐玄宗紀 小前 亮

「傾国の美女」というが、女ひとりで国が滅びはしない――
 
唐の九代皇帝、玄宗の一代期、なのですが、
中国歴史モノに無条件にアレルギーを感じる方にも、
これはぜひ読んでいただきたい作品です。 


玄宗というと、「皇帝の座にあるうちの前半は
善政を行うも、後半は楊貴妃とイチャイチャして堕落……
おかげで安史の乱が勃発、あわや亡国の危機……」
といったような評価がされがちで、かく言う私もそう思っていました。


が……、この作品は、宦官である「高力士」の視線に
寄り添いながら玄宗皇帝の苦悩やその周囲の権力闘争を
描くことで、玄宗皇帝や楊貴妃への、上記のような紋切り型の
解釈から目を洗ってくれる仕掛けになっています。


世界史最強クラスのバカップル(褒め言葉です) が
好きになること請け合いです。


また、一代期というのは歴史を順に追って行くことで
とかく退屈になりがちですが、 本作は、老境に至った
玄宗と高力士が当時を振り返る節がところどころ挟まれており、
それが箸やすめになるとともに、玄宗の人物像に奥行きを出しており、
非常に面白いです。


この玄宗と高力士のいちゃつくさまも、ある種の趣味を
お持ちの方にはご馳走かもしれません。そういう楽しみ方も
できるのが、本作のフトコロの深いところであります。


余談 本作を読んで……
 
玄宗と楊貴妃の関係を題材にした白居易の『長恨歌』は、
本邦の文学にも大きく影響を与えたと言われており
(『源氏物語』は、『長恨歌』への「返歌」である、という説も
ありますし、あの『ドグラ・マグラ』でもネタにされていたり
しますね)、文学系の学科出身者としては、一般教養として
それなりに知っているつもりだったのですが、 歴史上に
実在した人たちとしてはほぼ知らないに等しかったことが
よくわかりました。 玄宗、楊貴妃、ごめんなさい。