2015/03/17

第63冊 本当の原理主義とはこういうことさ 『イスラーム 生と死と聖戦』

イスラーム 生と死と聖戦 (集英社新書): 中田 考: 本


原理主義より原理的


イスラーム研究者にして本人もムスリムという
日本では稀有な存在の著者による、イスラーム思想の
入門書。

いや、わかりやすいけど入門書と呼んでいいのかどうか……
この点は後述します。

北大生をISへ紹介したかどで物議をかもした著者だけど、
この本を読むと、その考え方のスケールに畏れ入ります。

イスラーム思想をつきつめて考えるとこういう世界観に
なる、という考え方を紹介しているが、その過程で、
色々と目からウロコの話が続きます。例えば……

イスラームの話をすると、必ずと言っていいほど
「イスラームにはタブーが多くてたいへんそう」という
感想を聞きます。そこにはふたつの誤解が含まれています。
まずタブーと言う概念自体がイスラムにはないこと、
もうひとつは、イスラームはかなり自由度が高いもので
慣れてしまえば楽なことです。(p52)

「えっ?」と思いませんでしたか?
詳しくは読んでいただきたいですが、これだけでなく、
目からウロコの落ちまくる内容です。

・イスラームは、実は他の宗教にかなり寛容
・イスラームはアニミズム 
・イスラーム原理主義者と言われる連中も、実は
 イスラーム思想の根本に則っていない
・政教分離では実はあんまりいいこと起きていない
・イスラームは本来、国家というものを必要としない

私は本書で、自分がイスラーム思想がまったく
分かっていなかったことがよぉーく分かりました。


いや、中田さんに言わせると、ムスリム当人たちですら
イスラーム思想がいまひとつ分かっていない、という
ことになるのですが。



入門書の皮をかぶった、変革の書




この本の凄みは、

「世界中がイスラーム法が施行される空間になれば、
宗教や生活上の習慣の多様性は確保したままに
国家は不要になり、人間はより自由になれる」

という、ある意味イスラーム国が可愛く思えるくらいにアナーキーな
世界観を、「論理的に」提出してみせていることです。


イスラーム思想を敷衍していくと、現在世界を覆う問題に
対して、我々が前提と思っている世界観そのものを揺るがすような
(「国家」そのものが不要なのでは?など)解決法に至るという、
その論の展開は圧巻です。


また、現在世界を騒がせているイスラーム国、ISを、
イスラーム思想そのものを突き詰めた論理から批判するという、
ちょっと余人にはマネのできない知的アクロバットを見せてくれます。


日本国内では、イスラーム国を「国」と認めること自体が彼らの
思うツボだ、という論調が主流ですが、中田さんの論によれば、
彼らが「国」を志向すること自体が、イスラーム思想としてツメが
甘い、ということになります。


イスラームに興味のある人はもちろんのこと、興味のなかった人も、
我々の住んでいる世界・社会を相対化して考えることのできる、
頭のストレッチになって楽しいと思います。ぜひご一読を。

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