2015/05/29

第78冊&79冊 心霊世界をとくと味わう対談集 『うわさの人物』&『心霊づきあい』

「実は僕、死神を見たことが三度ぐらいあるんですよ」(ハマサイ氏)

霊が見えちゃうとか聞こえちゃうとか分かっちゃう、
みたいな話にはむかーしから興味があるんですが、
姉妹編と言ってもいいこの2冊は、霊的な世界に縁が
ある人々と、作家の加門七海さんとの対談本。


オカルト系の本は、極端に怖い話や、説教くさい
話に行きがちなんですが、これらの本は、対談形式の
おかげか、読み物としてするすると読めました。


あ、怖い話系とか、説教くさい系の本がつまらないってわけではなく。
面白いモンは面白いンですよ?これとかこれとか。念のため。

 参考:第53冊&第54冊 意識の奥底から聞こえる「声」『神に追われて』&『ドグラ・マグラ』
 http://sanmando.blogspot.jp/2015/01/5354.html


 参考:第62冊 霊界との清く正しいお付き合い 『いかにして高次の世界を認識するか』
 http://sanmando.blogspot.com/2015/03/62.html


さて、参りましょう。

 うわさの人物―神霊と生きる人々 (集英社文庫): 加門 七海

こちらは霊能者9人へのインタビュー本。

超能力者に修験者、ユタに、占いの的中するエステティシャンまで、
まあ、錚々たるメンバーです。

自分に霊能なんて無い、という人も数人いらっしゃるのですが、

 「いや、それどう考えても霊能力だろ!」

とツッコミたくなるような、スゴイ体験の数々が語られますが、
彼らが謙遜して見えるのは、彼らにとってはそれが日常だから、
なのかもしれません。


心霊づきあい (MF文庫ダ・ヴィンチ): 加門七海

こちらは、プロの霊能力者というよりは、霊的な
ことに造詣の深い……あるいはそうした体験を
多くしている著名人がメイン。


個人的には、CLAMPやグレートサスケがいたことにびっくり。
トリの稲川淳二はさすがの風格。


2冊合わせて20人もの人々がインタビューされている
わけですが、個人的に特に面白かったのは、「昼は敏腕女社長、
夜は霊能者」の井川浩子さんへのインタビュー(『うわさの人物』
所収)。

霊能力の師について、何か面白いエピソードはないか、と聞かれた時に

井川 うーん、力比べみたいなことをしていたときかな。部屋があって「入ってはだめだよ」と言われて、その部屋の真ん中に、御札がトンと立ててあるんです。それで、ピシッピシッと、将棋の駒を指すような音がする、私にはわからないんですけど、お婆ちゃんには相手が何かを仕掛けているとわかっているらしく、音より速く一カ所に目を向ける。と、そこがまたビシビシッと鳴る。 
 おそらく、お婆ちゃんも何かやっているんですよ。つまり、目に見えない将棋、一種の遊びですね。ただ入っちゃいけないとは言われたので、まったく安全なものではなかったのだと思います。同じようなレベルの人と、遊んでいたんでしょうね。 

加門 嫌な遊びですね(笑)。

なんか楽しそうですよね(笑)。

この世のどこかでは、ホンモノの能力者同士がこんなことをしている世界が
あると思うだけで、ちょっと胸熱でございます。

フシギな世界が好きな方は、ぜひ二冊合わせて読みましょう。

2015/05/27

第76冊&第77冊 巨大な「空気」との戦い方 『ココ・シャネルという生き方』&『宮武外骨』

さて、今回は評伝モノを2冊。


一方はデザイナー、一方はジャーナリスト。

まったく接点のない二人ですが、共通しているのは、
それぞれ、とてつもなく強大な敵と戦った人生である、
という点ですね。

デザイナー、シャネルは、フランスの社交界や女性軽視の
風潮、それに既存のモードと。

ジャーナリスト、宮武外骨は、明治大正昭和の日本政府の
体制、とりわけ言論への統制と身分格差のありようと。

戦い続きの人生で、評伝を追うだけでもため息が出るくらい
忙しい生きざまですが、それでも自由に、好き勝手に、
たぶん楽しく生きて、亡くなったのではないか、と
いう点で、人生、ここまでやる人もいるのか、と思わせてくれる
二冊です。

ココ・シャネルという生き方 山口 路子


とにかく働き、戦う女


絶対にふだんの自分では読まないジャンル、という
ものを、たまにつまみ食いすることにしています。


これも、その「つまみ食い」した本なのですが、
いや、意外に面白かったです。


恥ずかしながら、シャネルのことは、「マークが
カッコいいなぁ」ということと、マリリン・モンローが、
寝るときの服装について聞かれたときに
「シャネルのNO.5」と答えた(つまり裸!?)という
エピソードくらいしか知らなかったのですが。


シャネルというブランドを築き上げたココ・シャネルこと
ガブリエル・シャネルの人生は、波乱万丈という言葉では
足りないくらいに激しくて、しかもその激しさに敢然と
立ち向かう姿は、超絶カッコエエです。


シャネルの人生から得られる何か


本書は、

ガブリエル・シャネルは、コレクションのショーの最後をウエディングドレスで飾ったことがなかった

……という「謎」から、シャネルの人生を読み解く。

基本的には時間軸に沿って書かれている伝記なのですが、
章ごとに「message from CHANEL」なるパートが設けられ、
シャネルの生き様を簡潔な言葉にまとめつつ、分析しています。
例えば、

・人生の一番は、一つだけ 
・うまくいかないときは、動かない
・自分のために、それをする

などなど。

自己啓発書のニオイがニガテな方は、うわっと思うかもしれませんし、
著者の思いが乗りすぎている感もあるので、賛否両論分かれるところでしょうが、
それでも、シャネルの生き方を切り取って理解するには、親切な組み立てです。

仕事が好きすぎて「働けない日曜が嫌い」というくらいに、
極大までパラメータを仕事に割り振ったシャネルの生き方が、
そのまま我々の参考になるのかならないのかでいえば、
あんまりならないような気もするんですが(笑)。


金と権力は、自分の愛する美のために


多くの芸術家と親交があった、というのもこの本で初めて
知りました。パブロ・ピカソにジャン・コクトー、ストラヴィンスキー……。

仕事でがっつり儲けて、必要とあらば、芸術家たちの
パトロンを買って出ることもしばしば。

20世紀前半の文学絵画音楽といった世界にとっては、
恩人と言えるかもしれません。素敵。

そして70歳を超えて、過去の人となりつつあったシャネルが、モード界に
カムバックしようとして、ある女優に「なんでまた、厄介なことをはじめたの?」と
問われ、返した言葉が、べらぼうにカッコいいんです。

「すごくうんざりしているの。あなたなんかにわからない」

この闘争心、自信。

近くにいたら大変な人なんでしょうけれど、結局彼女のワガママは、
世界を変えたのです。

あっ、ウェディングドレスに対する問いは、ちゃんと本の最後で解かれます。



で、もう一冊。

宮武外骨伝 吉野 孝雄


パロディで戦う


宮武外骨。


反体制・反権力のジャーナリストとして有名なんですが、
その「戦い方」が、とにかく体制・権力の在り様を風刺して
茶化しまくる……という点に特徴があります。


例えば、自らの発行する雑誌の中で大日本帝国憲法の
条文のパロディで、

「大日本頓智研法」

なるものを発表、時の政府の痛い所を風刺。不敬罪で
懲役を喰らいます。


官吏侮辱、秩序壊乱、風俗壊乱の罪に問われ続けるも、
刑を喰らったこと自体を記事のネタにし、
獄中にあっては、周囲の囚人たちと結託して、
前代未聞の獄中出版を実行。


「骨董協会雑誌」という雑誌を発行するも、コスト高の
雑誌を維持するだけの売上を維持できず、借金を
抱えたまま台湾に移住して鶏を育てて糊口をしのぐも、
文筆への欲望おさえがたく、台湾でのできごとをまた
印刷して本土の友人たちへ書き送る。

……など、とにかく、どんな状況にあっても文章を書き、
本を出すことを続けたがる人なんですね。


伏せ字のおかしさを問う伏せ字



個人的に大好きなのは、日露戦争当時の滑稽新聞に
掲載された「秘密外の○○」という記事。


こちらで全文(?)を読めますが、一部引きますと、

今の○○軍○○事○當○○局○○○者は○○○○つ○ま○ら○ぬ○○事までも秘密○○秘密○○○と○○○云ふ○○て○○○○新聞に○○○書○か○さぬ○○事に○して○○居るから○○○新聞屋○○は○○○○聴いた○○○事を○○○載せ○○○○られ○○得ず○○して○○丸々○○○づくし○の記事なども○○○○多い○○○是は○○つまり○○○當局者の○○○○○尻の○○穴の○○狭い○はなしで度胸が○○無さ○○○○過ぎる○○○○○○様○○○だ

この面白さ、伝わりますでしょうか。

当時は、検閲にひっかかりそうな部分は伏せ字として○○と
表記されていたわけですが、この文章、○○を飛ばして読んで
いっこうに差支えがないように書かれているんです。

当時の検閲のありようそのものを茶化すネタだったわけです。


変人は変人を呼ぶ


この本は、ジャーナリスト、編集者としてのこうした外骨の戦いを、
家族友人との関係などを添えながら描き出しており、周囲の
人々の苦労もよく分かるようになっています(笑)。

この本で初めて知ったのは、かの有名な南方熊楠や、今や
日本有数の広告代理店である博報堂の創業者、瀬木博尚との
親交。

民俗学を正統な学問たらんとする柳田國男からしたら、低劣な記事で
人々を煽っているようにみえる外骨の雑誌に、熊楠が寄稿するをいやがった、
なんていう話は、なるほどと思えるところです。



……ということで、巨大な敵と戦った人たちの評伝二冊をご紹介しました。
二人とも何が凄いって、とにかく「徹底的」ってことです。

富と権力と名声を得た正面突破。
諧謔趣味をまじえた言論によるゲリラ戦法。

でも、彼らが戦いを挑んでいたものは、今もなお、弱まったり、形を
変えたりはしていますが、健在です。

まあ、それを打倒できないまでも、せめてヤラれないように
生きていくために、こうした本に触れてみるのもいいのではないかな、
とも、思うのです。